修道中学校・修道高等学校 校長
田原 俊典
修道中学校・修道高等学校の源流は、1725(享保10)年に始まった広島藩の藩校「講学所」にあります。藩校は武士の子弟、つまりリーダーの資質を持つ人を選び育てる場所。多くの藩校は明治時代に官立の中学校となりましたが、修道は私立学校として藩校の伝統を継承したユニークな存在です。
時代を動かすような傑物には私塾の出身が多いと言われますが、本校もまた多彩な分野に数多のリーダーを送り出してきました。藩校由来の「世の中を牽引する人材を育てる土壌」に、「官からの制約を受けない自由闊達な教育」が融合した希少な環境が、修道多士済々の源だと思っています。
修道の生徒たちは、自らが志す学問を修めるために大学進学を目指していますが、例えば国立大学は現在、数値化しやすい指標で教育を評価され、研究では短期間で成果を出すよう求められる状況に置かれています。しかしこれは大学に限った話ではなく、社会のあらゆる場面で皆が同じ土俵に乗り、そこで際立った者が評価される傾向にあると感じています。同じ土俵で競って優位に立っても、それは競争原理によって成立したもの。こうした状況が繰り返されれば、やがて社会は均質化し、どこを切っても同じ金太郎飴のような恐ろしい社会になってしまうでしょう。
私は、これからの時代に求められるリーダーは「誰もやらないことができる人」であると考えています。誰もやっていないことに目をつけて、そこへ人を巻き込み、引っ張っていくこと。そのためにはカリスマ性やコミュニケーション力といった従来型の資質に加えて、人と異なる視点の持ち主であることが必要です。
21世紀を迎えて20年近く経ち、世の中の仕組みそのものが変わろうとしている今、例えばAI(人工知能)は人類を超えるという研究者がいる一方で、いや、そうではないという研究者もいます。
激しい変化の真っ直中にあって誰も未来を予測できない時代で、新しい視点や発想の源になるのは、やはり個々の知識や経験だと思うのです。修道では低学年のうちに基礎学力や学習習慣を徹底的に鍛え、自らの興味や関心の探求に必要な力を身につけます。
また細かな校則を設けず、学校生活のさまざまな場面で生徒自らがなすべきことを考え行動することを求め、学力に加えて、的確な判断や自発的な行動がとれる総合的な人間力を培います。
「どんな生徒に修道に入学してほしいか」と尋ねられることがあります。私はどんなタイプの生徒にも、ぜひ修道に入ってもらいたいと思っています。本校の魅力は、個性豊かな生徒同士が互いの特性を認め合い、刺激し合うことで化学反応が生じ、多様な成長を遂げるところにあるからです。個性豊かな生徒が集う本校ですが、卒業生たちは社会に出ても「修道の出身かどうかは会えばわかる」と口々に言います。確固たる個性を持ちながら、独特の「オーラ」をまとった人間が育つのです。修道出身者にはリーダーが多いという評価をいただいていますが、その「オーラ」がリーダーシップと呼ばれるものかもしれません。
修道には「講学所」の開設から300年近くもの長きにわたり脈々と培われてきた、リーダーが育つ土壌があります。変化の激しい社会にあっても競争原理に絡め取られず、時には立ち止まる勇気を持ち、少数派になることを恐れない器量のある人間を育て、次代のリーダーとして社会に送り出していきたいと考えています。
学年およびメッセージ内容は2020年取材時のものです。