4■■■■ 遠藤 伸彦 2024年度入試は、共通テストになって4年目、共通テストへの「情報Ⅰ」導入などの新課程入試が実施される2025年度共通テストの前年の入試であった。共通テスト2年目の一昨年、センター試験を含めて平均点が史上最低となり、昨年も理科で得点調整が行われるなど大学入試センターの見込み通りの得点にならない状況が続いてきた。3年目の昨年は平均点が初年度レベルに戻り、2年目の難易度が維持されるのではないかとの「恐れ」は払拭されたものの、3年間大きな変動がなかった科目でも、試行テストの国語で出題された契約書の問題のような大きく傾向が変わる出題があるのではないかという懸念はつきまとっていた。結果的に総合の平均点は昨年を上回り、衝撃的な出題は見られず、得点調整も行われず、共通テストの出題が「こなれてきた」との評価も見られた。 確かに予備校が推測する今年度の900点満点の平均点(理系)の557/900は、センター試験最後の5年間の平均561/900にほぼ一致ししているが、出題内容などがセンター試験に戻っている訳ではない。共通テスト1年目からのリーディングの平均点を見ると、以下のように4年間の最低となっている。 リーディング:58.80 → 61.80 → 53.81 → 51.54一方でリスニングの平均点は4年間上がり続けている。 リスニング:56.16 → 59.45 → 62.35 → 67.24 トータルすると英語全体ではバランスが取れているように見えるが、毎年指摘しているように話は単純ではない。センター試験の時代から各大学には配点「リーディング100点+リスニング100点」を「リーディング100点×1.5+リスニング100点×0.5」でトータル200点のように自由に比率を変えることが認められており(「傾斜配点」と呼ぶ)、多くの難関大がリーディングとリスニングの比率を4:1や5:1としているため、リスニングの平均点が上がり続けているにしても、リーディングの平均点が下がる傾向が続いていることの影響は大きい。 リーディングの平均点が下がっている理由の一つとされるのが、リーディングの試験問題全体で使われる英単語数の増加である。共通テストになってからのリーディング80分で問題に使われる英単語数は、 5381 → 5850 → 6014 → 6292 と一貫して増加しており、試験時間(80分)で割った単純に1分ごとに処理すべき英単語数は、 67.3 → 73.1 → 75.2 → 78.7となり、2024年度共通テストでは初年度の116.9%となった。古い話になるが、あるネットのサイトによると、35年前の1989年に行われた最後の共通一次試験の英語の試験は100分で2728単語であり、今年度の共通テストのリーディングでは1分間でその何と2.9倍を処理する必要がある。更に、リーディングの問題で問われていることが、事実として英文の内容に合致しているかどうかだけでなく、英文に登場する人物がどのように感じたかなども選択肢として聞かれており、極端なことを言うと登場人物の勘違いも読み取る必要があるということで、読み取るべき内容が複雑になっているとも指摘されている。共通テスト「らしい」問題の傾向は今後も続いていくと考えるべきであり、特に英語は、下の学年からスピードを意識した学習をさせることが不可欠と言えるだろう。 話を本校の2024年度入試に移そう。下は、昨年までの10年間の現役合格者数の平均値と今春卒業の76回生の2024年度入試を比較した表である。 東大・京大現役合格者4人は、2014年度以降、2016年度と並んで少ない方から2番目であり大いに反省しなければならない数字である。一方で医学部医学科を含めた14人は表の10年の平均値を上回っており、医学部医学科現役合格10人は表の10年の平均値3.9人の倍以上であり、2020年度・2022年度の6人を上回って最多となった。ある予備校のサイトによると2024年度入試の国公立大医学部医学科の志願倍率は4.48倍で前年の4.46倍から上昇し、一般入試の2.9倍を大きく上回って「医学部人気は健在」と評されている。 今春卒業の76回生は、中3の春がコロナによる長期休校の時期にあたり、中3の夏は夏休みがほとんどなく、数学などでは夏から秋にかけて猛ダッシュで中学の範囲を終わらせて高校の内容に入った学年である。例年行っていた4年の東大見学ツアーも5年の東大京大セミナーも現地に出向くことはできなかった。4年の東大ツアーは、修道OBで東大工学部の先生がスマホで写しながら東大内を案内してくださるのを教室のプロジェクターで見るリモート形式で行い、東大・京大の現役大学生も下宿から教室にいる後輩の質問に答えてくれた。5年の東大京大セミナーも通い形式で学校の教室で実施した。当時それ以上のことができたとは思えないが、昨夏3年ぶりに東大ツアーで東大を訪れてみると、実際にその場に身を置いて肌で感じ、直接話を聞くことのリアリティーに圧倒される思いであった。 76回生は、6年秋の記述模試で理系の最上位5人のうち3人、10人中4人が医学部志望であり、2014年度以降では最多タイであった。医学部医学科を志望することをマイナスにとらえているわけではないことは言うまでもないが、「医師」という職業が生徒にとってイメージしやすい将来像のほぼ最上位にくることは否定できず、コロナ禍があったとはいえ、下の学年から医学部医学科とは違う将来像をイメージさせるアプローチが弱かったとすると、残念でならない。 校長は卒業式で76回生を「慈悲深い」と表現した。受験が徐々に近づいてきても、お互いを意識してピリピリするような面はさほど感じられず、非常に穏やかに受験を迎えたように見えた。が、逆に言うと、お互いが競い合ってしのぎを削るというような面が強くはなかったとも言えるかもしれない。受験が終わった後で「もう少し早くフルスピードに持っていけていたら…」という声も聞いている。とはいえ、来年から共通テストに「情報Ⅰ」が導入されることを意識して浪人を避けて安全志向に大きく流れるという動きはなく、浪人する卒業生もコロナ禍前の数字に近い。毎日顔をあわせて指導することはできないが、新課程入試にも怯まず捲土重来を期す76回生をサポートしていきたいと考えている。2024年度2014~2023年度平均 7.6東大・京大現役合格者数 11.5東大・京大・国公立医学部医学科現役合格者数 15.7超難関5大学現役合格者数 33.4難関10大学現役合格者数 93.7国公立大学現役合格者数 ※ 東京大・京都大・大阪大・東京工業大・一橋大が「超難関5大学」と、それに北海道大・東北大・名古屋大・九州大・神戸大を加えて「難関10大学」と呼ばれている。 4 14 11 25 922024年度 大学入試結果報告
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